忍者ブログ
嘘っぱち日記用
[7] [6] [5] [4] [3] [2] [1]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

そのとき僕と彼女は別れ話の真っ最中で、
どちらが家を出て行くかの話し合い、というか
お前が出て行けよという押し付け合いをしながら
問題の「我が家」に帰るべく駅からの道を歩いていた。

仲むつまじい休日のお出かけが些細な口論で一転別れ話、
とは私たちも冷めたものだわね、なんて彼女の月並みな発言を
鼻で笑いつつ。品のない笑いだとか罵られつつ。

で、行く手をさえぎる黒いトランクと遭遇したわけだよ。

鍵はなぜか掛かってなかった。ので、人間の本能にしたがって
開けてみたところ

22くらいに見える女が転がり出てきた、と。


**


「生きてるわよ。あたたかいし」
「まあ死なれてても困るんだけども」

彼女がおそるおそる女に触れて言い、
この健康的な顔色を見たらわかるだろう、
という突っ込みは入れないことにして僕も答えた。
なんともまあ、安らかな寝顔だったよ。頬とか桃色だし。

トランクを見つけた時点でなんとなく口喧嘩を辞めた僕らは
(まあ実際、堂々めぐりの口論にはあきあきしてたし)
目でうなずきあって、もう一度女を密封しようと試みたんだけどさ。

何とかトランクに詰めた時点で、起きたんだよ。うん、女が。
それでさめざめと泣き出しちゃったりするわけだ。
ここはどこ、自分の名前も住所も判らない、これからどうしよう云々。
泣いてる女の前には僕と彼女と空のトランク。
事情を知らない人が見たら確実に犯罪者は僕たちです。
この女に警察に駆け込まれても起きてからの記憶を話されると
僕たちトランクに人間詰めるのが趣味の容疑者第一候補です。
うわあ前途ある未来が。とりあえずこの女黙らせないと。

「……とりあえず、うちでお茶でも」
「ええっ、よろしいんですか!?」

女を隠蔽したい一心で言い出したのは、僕だったか彼女だったか。
泣いていた女は、途端に顔を輝かせて嬉しそうに叫んだので、
よかった懐柔は簡単そうだ、
と僕は咄嗟に考えたたのだった。


**


そのまま女は家に居ついた。記憶が戻らないし、
下手に泳がせると僕らの未来に暗い影が射しかねないし。
そして僕も彼女のどちらも家を出ないままでいる。

「タイミングを逃したというか、何というか」
「一時的に熱くなってただけって気もするしね」

のんびり茶をすする女を横目で見ながら
ときどき、僕たちはそんなことを話す。
女は、記憶がなくてもけっこう幸せそうだ。
僕たちもまあ、今の生活に、不満はない。


PR

コメント


コメントフォーム
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード


トラックバック
この記事にトラックバックする:


忍者ブログ [PR]
カレンダー
02 2024/03 04
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
フリーエリア
最新CM
(08/04)
最新TB
プロフィール
HN:
HP:
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
カウンター