嘘っぱち日記用
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そのとき僕と彼女は別れ話の真っ最中で、
どちらが家を出て行くかの話し合い、というか お前が出て行けよという押し付け合いをしながら 問題の「我が家」に帰るべく駅からの道を歩いていた。 仲むつまじい休日のお出かけが些細な口論で一転別れ話、 とは私たちも冷めたものだわね、なんて彼女の月並みな発言を 鼻で笑いつつ。品のない笑いだとか罵られつつ。 で、行く手をさえぎる黒いトランクと遭遇したわけだよ。 鍵はなぜか掛かってなかった。ので、人間の本能にしたがって 開けてみたところ 22くらいに見える女が転がり出てきた、と。 ** 「生きてるわよ。あたたかいし」 「まあ死なれてても困るんだけども」 彼女がおそるおそる女に触れて言い、 この健康的な顔色を見たらわかるだろう、 という突っ込みは入れないことにして僕も答えた。 なんともまあ、安らかな寝顔だったよ。頬とか桃色だし。 トランクを見つけた時点でなんとなく口喧嘩を辞めた僕らは (まあ実際、堂々めぐりの口論にはあきあきしてたし) 目でうなずきあって、もう一度女を密封しようと試みたんだけどさ。 何とかトランクに詰めた時点で、起きたんだよ。うん、女が。 それでさめざめと泣き出しちゃったりするわけだ。 ここはどこ、自分の名前も住所も判らない、これからどうしよう云々。 泣いてる女の前には僕と彼女と空のトランク。 事情を知らない人が見たら確実に犯罪者は僕たちです。 この女に警察に駆け込まれても起きてからの記憶を話されると 僕たちトランクに人間詰めるのが趣味の容疑者第一候補です。 うわあ前途ある未来が。とりあえずこの女黙らせないと。 「……とりあえず、うちでお茶でも」 「ええっ、よろしいんですか!?」 女を隠蔽したい一心で言い出したのは、僕だったか彼女だったか。 泣いていた女は、途端に顔を輝かせて嬉しそうに叫んだので、 よかった懐柔は簡単そうだ、 と僕は咄嗟に考えたたのだった。 ** そのまま女は家に居ついた。記憶が戻らないし、 下手に泳がせると僕らの未来に暗い影が射しかねないし。 そして僕も彼女のどちらも家を出ないままでいる。 「タイミングを逃したというか、何というか」 「一時的に熱くなってただけって気もするしね」 のんびり茶をすする女を横目で見ながら ときどき、僕たちはそんなことを話す。 女は、記憶がなくてもけっこう幸せそうだ。 僕たちもまあ、今の生活に、不満はない。 PR |
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