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嘘っぱち日記用
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 曇り空を一面に広げたような灰白色の中で私は目覚める。瞬きをして、隣から伝わる体温を意識して、自分のいた場所を思い出す。
 記憶はいつもそうだ。目を開けて、今日が昨日の続きだと認めてやっと、遠い駅から届けられた忘れ物みたいにひっそり訪れ、「私」はこんな人間だったと、遠慮がちに、しかし事細かに教え込む。起きる場所、食べる場所、眠る場所、眠る人まで。
 ここで目覚めるのが初めてなんて信じられないけれど。微睡む耳に響いてくる往来の足音や、始発に合わせて賑わう駅の気配は、こんなにも私の躰に沿うて心地よい。私の一部が既にこの場所に根付いてしまったのだろうか。故意に同化を望んでいるのか。少しずつ忘れ物をして、少しずつ私を置き去りにして、自分の場所に変えていくために。意図した忘れ物であることさえ忘却しながら。
 傍らの人が身じろいだ。無意識に目覚ましを探る仕草。休日だと知らせる必要はないだろう、ほら、寝返りを打ったとたんに健やかな寝息を立てている。
 発電車の警笛が響く。私は家へ繋がるその音を無視して、腕時計を布団の下に滑り込ませた。もう少し忘れていようと思う。狸寝入りは得意な方だ。
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