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嘘っぱち日記用
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「……わかった」

私が低く返事すると、小人達(4人)が一斉に顔を上げた。
律儀にも私が考えてる間待っていたのだ。相当怯えていたらしく
予想外の返事に眼を輝かせている。

「判ってくれましたか」
「これからは時々日記でもいいから書いてくれますか」
「恋愛とまでは言わないからもっと可愛げ出してくれる?」
「素面で真剣に読書してくれますか」
「学習担当も辞典の間から出してあげてください」

**

「違う。あんたら、全員クビ」

凍りつく四匹に向かって私は余裕の笑みを浮かべた。
所詮は小人である。駆け引きが下手なのだ、馬鹿だし。

「あんた」

恋愛担当を指差す。さきほど自己申告したとおり
確かに体はやつれ気味である。つまり。

「放置されすぎて死にそうって言ったね。要はあんた、
 使ってもらえないと死ぬんだ。違う?」
「えっ、えっと、そんなことは、な、ないけどど」
「ふうん。じゃあ勝手にしたら。これからは他人の
 恋愛相談にも一切乗らないから。すっきりするわあ」

絶句する恋愛担当を横目で見ながら、私は高らかに宣言する。

「これからは事務連絡以外の文章は書かないし啓蒙本と
 ベストセラーを愛読書にしてハッタリを一切言わず
 高校で挫折した理系教科の学習に力を入れる模範的な
 真面目人間になる!」

そして蒲団をかぶって寝た。昼までぐっすり。


**

三時頃、また小人に起こされた。

「……さま、容さま。起きてください」
「まだ居たのあんたたち」

よく寝た。何か顔むくんでるかも、と思いながら起きると
小人達が神妙な顔で正座していた。どうやって助けたのか
学習担当も(やや平らになっていたが)混じっている。

「反省しました容さま。すみませんでした」
「僕たちが悪かったです。もう日記書けとか言いません」
「中国人になれるよう頑張ります。韓国でもいいです」
「可愛いげないとか強情とか言って悪かったわ。ごめんなさい」
「読書のお供に珈琲淹れました。どうぞ召し上がってください」


「それでよろしい」
全く世話の焼ける。

台所から漂ってくる珈琲の香りに空腹まで思い出して、
むくんだ目蓋を押さえながら立ち上がる。
窓の外は快晴である。ご飯を食べたら散歩に行こう、と
欠伸をしながら私は思った。
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要するに、最近の私の生活が偏りすぎて
小人達を酷使したのが不満だったらしかった。

「面接のたびに私ばかりこき使われてはたまりません」
親玉格の小人が言う。いつの間に出してきたのか、
奴らはめいめい、自分の前に「○○担当」と書いた
小さな名札を立てかけている。(字が下手だ)
親玉の前には「ハッタリ担当」とあった。

「あー、ねえ。だって人生ハッタリじゃない」
22年も私に仕えておいて今更何を言うのか。馬鹿だ。

「それに最近小説どころか日記も書かないし!」
右端の小人が憤慨した様子で叫ぶ。「創作担当」らしい。

「書いてほしかったら時間とネタを持ってこい」
本当は気力が一番足りないんだけど。むっとしたので
不治の病と生き別れと記憶喪失が登場する、某隣国ドラマ並の
純愛物語を延々と書いてやろうか、と脅したら黙った。馬鹿だ。

「僕なんて偏りすぎて国籍変更されそうだよ」
「私は放置されすぎて死にそう。ほんと枯れた人ね」

学習担当と恋愛担当。……恋愛担当?
そんなの居たの、と言ったら泣いて黙った。
学習担当は中中辞典の間に挟んでおいた。静かになった。

「と、とにかく!」

左端にいた「読書担当」が裏声で叫んだ。声震えてるよあんた。

「飲み会と飲み会の合間に本を読んで寝るだけ、みたいな
 生活を改めるんだ! でなけりゃ僕たちは出て行く!!」

爪楊枝で突かれるような痛みを感じて眼が覚めた。
枕元に正座した小人達が私を小突いていたのだった。
数えると五人いる。一列に並んで正座していた。

「何すんのよあんたら」
「寝ぼけてても柄が悪いんですか容さんは」
「寝ぼけてるから余計に柄が悪いよ」
「寝ぼけてないときは根性が悪いんだ」
「そもそも寝ぼけてないときなんてあるかしら」
「ちょっと静かに」

私のもっともな抗議に口々に反抗していた小人達だが、
中央に陣取った小人が諌めると大人しく黙った。
こいつが親玉らしい。その他は無視してこれと話すことにする。

「あんたら何よ」

あんたらって。この人ほんと口が悪いね。寝起きが悪い。
根性が悪いのよ。

「煩い」

その他四匹を爪で弾いて黙らせる。中央の小人が心なしか
青ざめたが、私が手を遠ざけると、何とか威厳を保って
口を開いた。

「我々はあなたの脳内で働いていた小人です」

ああ。住み込みの。知ってる知ってる。
それで? 朝っぱらからご主人様起こすほどの用って何?

「朝っぱらといっても既に11時です」

屁理屈言うな家政婦。で何?

「……。貴女の横暴さにはつくづく愛想が尽きました。
 我々は出て行きます。あとは勝手にやってください」



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